ドラネス小辞典⑤ アルカディアの記憶 ~後編~

2019年9月24日

皆様こんにちはブラックバフです。

今回も引き続き、韓国公式サイトのコンテンツノートより
グラノームネストとアルカディアのバックストーリー(今回は後編!)をお届けします!

※今回の投稿は一部ネタバレを含みます!
特にサブクエスト/NPC会話未確認の方は要注意!!

原文はこちらからお楽しみいただけます!

韓国 ドラゴンネスト公式サイト

コンテンツノート
グラノームネスト〈手放すべきもの〉

「ようこそいらっしゃいました、お師匠様!」
アカデミアはラダメスの僻地、人気のない場所に居を構えていた。研究の邪魔をされたくないというのは建前だ。実際の理由は、その場所に、アルカディアの研究資料を復元したもの-中でもひときわ危険な物に関する極秘資料-を隠していたからだった。そして、極秘中の極秘である貴重な資源は、彼の足元に隠されていた。
アカデミアはちらりとそちらを見ただけで、そのまま部屋に入った。少年も続いて、部屋に入ると扉を閉じた。少年は、ある避難民夫婦の忘れ形見だった。ようやく5歳になろうかという年頃だろうか。
「先日、覚えるようにと渡した本は読んだのか?」
「はい。読み終わりました。それから、以前お伝えした試薬も出来上がりましたよ。アンナお姉ちゃん…いえ、アンナ殿が教えてくれた材料で、幸いにも副作用を緩和するのに成功したんです。今、私の畑で実験中です。3日後には結果が出るでしょう」
少年は褒めてもらいたがっている様子だったが、アカデミアは余計なことに時間を割くタイプではなかった。
彼は、物心つくより前から、数十種の薬草を見分け、ぜんまい仕掛けの原理を理解する天才だった。アカデミアが何を言いつけても彼はまるで遊びのように、いとも簡単にやってのけてしまうのだ。
褒める代わりにアカデミアはホコリまみれのマントを壁にかけ、椅子に腰掛けた。そして、自分の方をチラチラと見ている少年に手招きをした。
「言いたいことがあるなら言え。言いつけを守ったのだ。何を言おうと叱りはしない」
その言葉を聞いた彼の表情が一瞬にして明るくなった。のもつかの間、今度はどんよりと曇る。なにか言いたいことがあるのは明らかだった。
「…アンナ殿からおかしな話を聞いたのです。人々が様々なことを、私のやったことだと誤解していて…」
彼が何を言おうとしているのか大方予想はついていたが、アカデミアはじっと彼の言葉の続きを待った。
「前にチャイルドがラダメスを襲撃したことがありましたよね。あの時、チャイルドの位置を予測し、警備兵を派遣したのは私…いえ『ノルペ』だというのです。あの日私は自分の家でじっとしていたはずです。それだけではありません。以前、魔力装置を改良したのもこの私だと…」
彼は小さな声でぼそぼそと話していたが、やがて大きくかぶりを振った。
「どうして『ノルペがやった』と告げる必要があったのですか?私がやったことではないのに…
他にもあります。どうして私は、ナリン殿やルビナート殿以外に自分の名前を伝えてはならないのですか?アンナ殿に嘘をつくのは、私は嫌です…」
「……」
いいか、ノルペ。それらを成し遂げたノルペはお前であると同時に私ではない。人々が認識するノルペは荒れ地でもよく育つ新種の作物を開発する学者で、アカデミアの発明品をより優れた品に改良する発明家で、チャイルドの襲撃を予め予想し、ラダメスを守る偉人なのだ。そしていつかは否応なしに、お前がその偉大な人物なのだと謳い、そう振る舞う。もしも、それが嘘だと露呈したとしても、その『ノルペ』に劣らない…人々が納得できるほどのことをやり遂げなければならない。
それが、彼が今伝えるべきことだった。しかし、いくら稀に見る天才とはいえ、齢五つの子どもだ。こんな年齢から、彼がこの先背負うものを知る必要はない。そうアカデミアは考えた。代わりにアカデミアは、心が籠もっているとはほど遠い手付きで少年の頭をなでた。
「ノルペ、この先もしも『ノルペとはどんな人か』と尋ねられたら、雲のような髭をはやした老人だと答えるのだ。同じ賢者の言葉でも、人々は年寄りの言葉をより好む」
ノルペはそれを聞くが早いが、目をパッと見開いた。まるで言いたいことは全て理解したとでもいうように。そして、階段を一つ飛ばしで駆け上がるように、一手二手先の質問を矢継ぎ早に投げかけた。
「つまり、人々に『ノルペ』の言葉をよく聞いてもらうための策略ですか?ノルペの名によって、より信用を得られるように…?」
「そのとおり。さすがは我が弟子だ」
「ですが、いつまでも騙し通すことはできません。まだ私は何も成し遂げていないのに…」
「そのとおり。だが、今にそうではなくなる。余計な心配をするな。お前が今回開発した試薬を郊外の開発地区に配給する。当然、ノルペ…お前の名で、だ」
「ほ…本当ですか。お師匠様!」
「ああ。これからは、お前の行いで『ノルペ』の名に信頼を重ねていく。この先お前が成長して、老いたノルペが必要なくなったときに備え、身を挺して学べ。人々が、老いたノルペ同様、お前の才能や業績まで虚像だと思うことがないように」
「分かりました!お師匠様!」
子どもらしく、ノルペはにっこりと笑った。その表情を見たアカデミアの脳裏にテトラシアの顔が浮かぶ。彼女は自分にアルカディアを再建するよう言った。自分はその言葉にただ従っただけだったのだろうか?ラダメスはアルカディア再建の踏み台にすぎなかったのだろうか?
違った。ラダメスはアルカディアのように平穏のために築かれた場所ではなかった。全ての弱き者を受け入れられるわけでもなかった。なぜラダメスの確かな位置が人々に知られていないのか。なぜラダメスは、こうも険しい沼地の先にあるのか。
アカデミアは、アルカディアへの未練は自らの代で断ち切らねばならないと考えていた。
アルカディアはその豊かさでチャイルドを引き寄せ、ついにはチャイルドの手に落ちた。
ラダメスにおいては、そんなことがあってはならない。この場所はこの先、反女神派の人々の要塞として、難攻不落の象徴として機能するのだ。だからこそ、ノルペにはアルカディアの遺産をただ「記憶する」ように言いつけた。そうすることによって、彼は歴史的しがらみを全て排除した、純粋な知識のみを手に入れることができる。そしてその知識は、彼自身の才能によってのみ活かされる。このラダメスに最も適した形で息を吹き返すのだ。ノルペはなら十分にやってのける。彼は、そういう子どもだった。
ときにはそれを手放す方が利口なことだってあるはずだ。
ともすればアカデミアは、彼が母親から譲り受けた役目以上の重荷をあの小さな背中に背負わせようとしているのかもしれない。しかし、残酷なミストランドでは、それ以外に選択肢などない。もし、こんな世界ではなかったら。アルテイアのように明るく平穏な世界だったなら……
アカデミアはそんなことを考えながら、我知らずうたた寝をしていた。
お師匠様はお疲れの様子だ。そう思ったノルペはそっと彼に毛布をかぶせた後、誰に言われたでもなく、ひとり予習を始めた。この日、ノルペが選んだのは、アカデミアが少し前に手を付けそのままにしていた文書-色彩を判別する装置の設計図だった。

 

…いかがだったでしょう?
本編では深く語られることがなかった、ノルペの師匠アカデミアとアルカディアのお話でした。

ときには冷酷さすらも感じさせる、ノルペの沈着な行動の理由はここにあったのか…と翻訳しながら考えたブラックバフでした。

今回の小辞典が、皆様のドラネスライフをさらに彩ることができれば幸いです!
それではまた次回お会いしましょう!